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インタリオのモチーフ

[古代ローマ インタリオ リング 『戦いに挑む戦士』+]

このインタリオの魅力の1つが、モチーフの面白さです。

古代ローマの戦士の装備は時代によって変化します。まず戦士が持つ盾を見てみると、楕円形の大型の盾(スクトゥム)が彫られています。

古代ローマ初期(初期の共和政時代)のローマ軍兵士は、古代ギリシャ重装歩兵伝来の小さな円形の盾を使っていました。

その後、共和政時代(紀元前508年 - 紀元前27年)は大型の楕円形の盾が使われるようになりました。紀元前122年-紀元前115年のレリーフにも、大型の楕円形の盾を持つローマ軍兵士が彫刻されています。

古代ローマ軍の盾装備としては、長方形の大盾を思い浮かべる方も多いと思います。ローマ軍特有のテストゥド(亀甲)隊列は、映画などでもおなじみですね。

盾の形状が大型の楕円形から長方形に変わったのは、帝政ローマ前後(紀元前27年)です。盾の進化により遠征しやすくなり、”至高の皇帝”とも言われるトラヤヌス帝時代には最大領土を獲得しています。

この長方形の盾は3世紀の終わりには姿を消し、その後はまた円形や楕円形の盾が使用されるようになりました。

抜群の彫りのインタリオ

[古代ローマ インタリオ リング 『戦いに挑む戦士』+]

戦士のモチーフは古代ローマのインタリオでは人気がありましたが、このような細部まで彫り込まれた表現は極めて珍しいです。

古代ローマは階級によってはっきりと服装が分けられていました。軍人の装備もそうです。

このインタリオは、当時の彫りとしては極めて優れています。インタリオは当時印鑑としての役割があり、一般市民にも広く普及していました。このため、古代ローマのインタリオはレベルの低い物から第一級品まで、数多く存在します。
高い地位で重要な役割を果たしていた人物には、偽造防止や判別しすさも兼ねて、よりレベルが高いインタリオが必要とされました。

[粘土に押した画像+]

この粘土は少し柔らかいせいか、細かい彫りの線が出ていません。このインタリオはそれだけ細密な彫りだということです!

しかし兜、マント、盾を握る手、腰の装備まで十分に解ります。

インタリオに彫られた戦士の装備で、持ち主がどのような地位の人物かが解ったはずです。

このインタリオを作らせた人物が、高い地位で重要な役割を担っていたことは想像に難くありません。

グロボロで表現された腰の装備は、共和政ローマの政治家・軍人・文筆家のユリウス・カエサル像の物にも似ています。詳細は調査中ですが、ロリカ・スクアマタ(小札鎧)の可能性も考えられます。

ロリカ・スクアマタは、皮鎧の上に、薄く伸ばした小さな金属片を鱗状に取り付けたスケイルメイルの一種で、ローマ軍では共和政期に最も普及していました。共和政、帝政期に共通して古代ローマ軍に最も普及していたのはロリカ・ハマタ(鎖帷子)です。ロリカ・スクアマタはロリカ・ハマタと比べて高価だったため、指揮官階級や一部の兵科にのみ使用されていました。いずれにせよ、インタリオの戦士は高い地位にいた可能性が高いのです。

ちなみにロリカ・スクアマタの鱗状の小札は紐で繋がれていたため、今の所完全な形でロリカ・スクアマタが発見されたことはなく、発掘品は全て断片の状態です。鱗のサイズや形状も、特に統一規格はありませんでした。

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