エセックス・クリスタルは、アンティークジュエリーの中でもとても面白みのある物ですが、カメオなどに比べてどんな技法で作られているのか以外に知られていないですね。

これを初めて見る人は、一見夜店で売っているようなプラスチックの中に何かが入っている物をイメージすようですが、それは大いなる勘違いというものです（笑）。

これは立体ガラス絵とも言うべき物で、まるでカメオが中に入っているように見えるのは、水晶の裏からインタリオ（沈め彫り）を彫り、彩色しているからです！

これは実は大変高度なな技術と手間が掛かる仕事ですし、見た目には分かりにくいので、カメオのようにブームにならなかったし、20世紀初頭で完全に廃れてしまった技術です。

まず透明な水晶の裏にカメオとは逆に立体的にモチーフを彫ること自体がどんなに難しいことかを理解出来ないと、エセックス・クリスタルの魅力は理解出来ません！

透明な水晶にカメオのような彫りを陰刻するには、彫りを目で見て確認しながら彫れる訳ではないのです！
インタリオがそうであるように、3D画像が頭に浮かぶ人間でなければ出来ない技術なのです。

現代でも優秀な建築家の中には、頭に浮かんだ3Dの図面をグリグリ回してどの角度からも見られる人がいることが、最近は分かっています。

彫るだけでも非常に難易度の高いことなのに、さらに彫った部分を磨くのですがこれがまたとても手間の掛かる仕事です。

最後に彩色するのですが、これは言わば細密画のガラス絵と言えるもので、普通の絵とは逆にガラス絵のように手前から奥に描いてゆくのです！

この作品は、下にマザーオブパールを置いてあるので、まるで銀屏風に書いて日本画のような雰囲気です！

ガラス絵は描いて額に入れれば、絵の部分が空気に触れにくいので、長い年月退色しないのが特徴ですが、エセックス・クリスタルも同じで絵画のように退色することはなく、数百年の時を経ても描かれた当時のままの状態を保たれるのです。

エセックス・クリスタルは、ほとんどが男性の為に作られた物で、モチーフもハンティングにまつわる物が多く、大きさももっと大型でフレームもシンプルです。

そんな中で、この『小鳥のエセックス・クリスタル』は、フレームに小さな天然真珠とローズカットダイヤモンドを使った繊細でエレガントな雰囲気なので、これは明らかに女性の為に作られた珍しい作品です！

女性用のエセックス・クリスタルは、もっと後の時代（1900年頃）に作られるようになり、それらの物は小さな花などのモチーフで彫りも彩色もずっとレベルが低いのですし、フレームの作りも簡素な物です。

だからこの小鳥のエセックス・クリスタル』のようにモチーフの部分の大きさがたった1,2cmという小さな物なのに、大型の物に勝るとも劣らない見事な彫りと彩色は滅多に見ることのない珍しい作品なのです！

直径1,2cmの小さな水晶に、木の枝に留まった小鳥とススキを彫るのは至難の技ですし、しかもそこに彩色してあるのですから、カメオなどよりずっと難しい細工なのです！！

それにしてもこのフレームの作りは素晴らしい！！♪

上質の天然の間に留められている極小のローズカットダイヤモンドの台座は美しい形の菱形になっていますが、肉眼では余程目が良い人でないと見えないほどの小さな物なのです！！

それにその内側のローズカットダイヤモンドが留められているラインは、単純な形状ではないのに、皆さんは気がつかれたでしょうか？

このような手の込んだ素晴らしいフレームは、このエセックス・クリスタルが如何にハイレベルの出来かの証なのです！！